学ぶほど、コーヒーは面白くなる
Buenos Aires
Philocoffeaにご来店いただき、ありがとうございます。
コロンビアのコーヒーのご紹介です。
コロンビア南部、ウイラ県ピタリートのPalmar de Criollo村に位置するFinca Buenos Aires。5から6ヘクタールほどのこの農園を管理しているのが、Yovanny Gonzalez Lassoさんです。Yovannyさんの両親は、生涯にわたってコーヒー農家として働いてきました。幼い頃からコーヒーが身近にある環境で育ったYovannyさんですが、意外にも、最初から自分もコーヒー生産者になりたいと思っていたわけではなかったそうです。むしろ若い頃は、「ほかの可能性も探してみたい」と考えていました。
そんなYovannyさんとコーヒーとの関係を大きく変えたのが、SENA(コロンビア国立職業訓練機関)の技術プログラムと、その後Escuela del Cafe(コーヒースクール)で経験したインターンシップでした。そこで出会ったのは、それまで身近にありすぎて気づかなかった、コーヒーの奥深い世界。
標高が違えば、味わいが変わる。
生産される地域が違えば、また違った個性が生まれる。
品種や精製方法によっても、一杯の表情は大きく変化する。
知れば知るほど新しい疑問が生まれ、「もっと知りたい」という気持ちが膨らんでいきました。その好奇心が、やがてスペシャルティコーヒーを自分の仕事にするという決断につながります。そして現在、Yovannyさんは家族が営んできたFinca Buenos Airesを管理しています。
Yovannyさんがコーヒーづくりで大切にしているのは、何かひとつの特別な技術ではありません。「品質をつくるためには、いくつもの大切な要素がうまく組み合わさる必要がある」と話します。土壌とコーヒーの木を健康に保つための適切な施肥。収穫時には、良い状態のチェリーだけを選ぶこと。そして収穫後の精製や発酵にも細心の注意を払うこと。どこかひとつだけを頑張ればいいのではなく、すべての工程はつながっている。だからこそ、小さな作業にも手を抜かず、一つひとつ丁寧に積み重ねています。
その根底にあるのは、自分たちの仕事への愛情です。自分たちが時間と手間をかけて育てたコーヒーが一杯になり、それを遠く離れた誰かが飲んで「美味しい」と感じてくれる。その瞬間に、それまで積み重ねてきた仕事や努力が報われるように感じるのだそうです。
生豆商社から共有してもらったYovannyさんのインタビュー資料の中で、個人的にとても印象に残った言葉があります。
「コーヒーの面白いところは、毎日必ず何か新しいことを学べることです。「これが絶対に正しい」と決まっているわけではありません。まだ試したことのないさまざまな精製方法があり、新しい品種との出会いもあります。コーヒーの世界は常に変化し続けていて、私たちも学び続けています。そして、コーヒーはいつまで経っても私たちを驚かせてくれるんです。」
私自身、何年この仕事をしていても、「コーヒーって面白いな」と思わせてくれる瞬間があります。きっと全部を知る日は来ないし、だからこそ私たちは学び続けられる。Yovannyさんの言葉を読みながら、そんな終わりのない面白さも、コーヒーを好きでいられる理由のひとつなのだと思いました。
一度は家族とは違う道も考えたYovannyさんが、学ぶことをきっかけにコーヒーの面白さに気づき、今では家族の農園を管理している。そう考えると、Finca Buenos Airesは単に両親から受け継いだ農園というだけではなく、Yovannyさん自身がコーヒーの面白さを知り、自ら選んで戻ってきた場所なのかもしれません。
今回のコーヒーはTabi種。Tabiは、病害への強さと美味しさ、その両方を求めてコロンビアで開発されたハイブリッド品種です。さび病などへの耐性を持つTimor Hybridと、TypicaやBourbonなどのアラビカ種を掛け合わせ、2000年代初めに誕生しました。コーヒーとしての美味しさを大切にしながら、病害にも強く育つことを目指した品種です。プロセスは、48時間の嫌気性発酵を2回行うDouble Anaerobic Natural Process。生豆は黄色や茶色がかった見た目で、袋を開けた瞬間からかなり発酵感のある香りが感じられました。
最初に生豆を見たときは、黄色や茶色っぽい発酵系特有の色合いから「これはしっかりめの深煎りにしようかな」と考えていました。でも、途中でふと、それではいつも通りすぎるなと。このコーヒーをあえて浅煎りに仕上げてみたら面白いのではないかと思い、思い切って浅煎り寄りに仕上げてみました。これが、とても難しかったです...
水分値は高めなのですが、焙煎前半から火力をかけすぎると表面が焦げやすく、苦味の強い味わいになってしまいます。そこで前半は少し火力を抑えながら優しく熱を入れ、中盤にかけてしっかりとエネルギーを与えて反応を進めました。さらに焙煎時間を10分程度とやや長めにとることで、酸の強度を少し落ち着かせながら、このコーヒーが持つ複雑さを引き出しています。「これが正しい」という一つの答えがないからこそ、焙煎でもさまざまな形でコーヒーを表現できる。今回のTabiを焙煎しながら、そんなコーヒーの面白さを改めて感じました。
焙煎から2週間ほどエイジングすると、酸の角が少しずつ取れ、味わいもまとまり、より抽出しやすくなってきます。豆の袋を開けた瞬間に感じるのは、ハイカカオチョコレートのような香り。お湯を注ぐと、カカオや洋酒を思わせる深みのある香りがさらに広がります。
温かいうちは、カカオニブやウイスキーのような、ほろ苦さと奥行きのある少し大人な味わい。そこから温度が下がるにつれて発酵由来のニュアンスとともに、ドライパイン、レッドアップル、カシス、レッドチェリーと、さまざまな果実が次々と顔をのぞかせます。さらに、梅酒を思わせる甘酸っぱさもあり、果実をぎゅっと凝縮したような、しっかりとした果実酒の印象も感じられます。
ひと口目からしっかりとパンチがありますが、温度が変わるたびに「今度は何の味がするだろう」と探しながら飲んでみると、このコーヒーの複雑さがより楽しめると思います。
生産者も、ロースターも、そして飲む人も、それぞれの視点から新しい発見ができる。
そんなコーヒーの面白さを、この一杯から感じていただけたら嬉しいです。