二人の兄弟が、広げるコーヒーの可能性
発酵を重ね、その先の美味しさへ
El Diviso
Philocoffeaにご来店いただき、ありがとうございます。コロンビアのコーヒーのご紹介です。
El Diviso。この名前を聞いたことがある方も、最近は多いかもしれません。ここ数年、世界のコーヒー競技会でもその名前を目にすることが増えた、コロンビア・ウィラを代表する注目の農園のひとつです。Philocoffeaでもこれまで、El Divisoのコーヒーや、彼らが精製を手がけたコーヒーを何度かご紹介してきました。
El Divisoがあるのは、コロンビア南西部、ウィラ県のBruselas。26年間にわたってコーヒー栽培を続けてきた農園で、現在はAdrianとNestorのLasso兄弟が中心となり、希少品種を含む6種類のコーヒーを栽培しています。
彼らの面白さは、ただコーヒーを「育てる」だけではありません。周辺の若い生産者や地域のコーヒー研究機関と協力しながら、さまざまな発酵材料や方法を取り入れ、コーヒーの新しい可能性を探り続けています。栽培から精製までをひとつのコーヒーづくりとして捉え、自分たちが目指す味わいをつくり上げていく。まさに「Coffee Producer」という言葉がよく似合う生産者たちです。
今回ご紹介するのは、Adrianが手がけたSidraです。Sidraは、近年スペシャルティコーヒーの世界でも注目されている品種のひとつ。今回の資料では、ネスレの試験農場で選抜の過程から生まれ、近年の遺伝子分析ではエチオピア原生種を背景に持つとされている一方、別の研究ではSL系統の要素も指摘されている、まだ分かっていない部分も残る品種として紹介されています。現在はエクアドルやコロンビアを中心に栽培されています。
そして今回、ぜひ注目してほしいのがその精製方法です。熟度の高いチェリーだけを選び、水に浮いた未成熟なチェリーなどを取り除いたところから、長いプロセスが始まります。まずは室温で24時間の好気性発酵。その後16〜18℃で32時間の嫌気性発酵を行い、再び約30時間の好気性発酵へ。さらに「BioMaster」と呼ばれるバイオリアクターへ移し、20℃で12時間の嫌気性発酵を行います。ここで終わりではありません。同じ品種のチェリーから培養したモストを加えた32℃のお湯に25時間浸漬し、さらに発酵を進めていきます。
発酵を重ねれば重ねるほど美味しくなる、という単純な話ではありません。それぞれの工程で時間や温度を細かく設定しながら、チェリーの状態をコントロールしていく。その緻密さに、El Divisoらしいコーヒーづくりへの探究心を感じます。発酵を終えたチェリーは50℃のお湯に5分間入れたあと、20℃の水で30分間洗い、微生物の働きを止めます。乾燥も一気に終わらせるのではなく、43℃で約10時間、37℃で8時間と段階的に温度を下げ、一度12時間休ませてから、最後は35℃で水分値10%から11%になるまで乾燥。発酵だけでなく、その後の乾燥まで細かく設計されています。このプロセスのひとつひとつが、彼らが思い描く一杯へとつながっています。
こちらのSidra、発酵由来の華やかさはしっかりあるのですが、私が購入した決め手はそこだけではありません。ベースにちゃんと甘さがあって、冷めても美味しい!発酵感の強いコーヒーは、冷めてくると酸の強さや質感のざらつきが気になることもあるのですが、これは最後まで甘さと質感がきれいに残ります。派手さだけではない、ちゃんとした質の良さを感じられるところが、このコーヒーの好きなポイントです。
焙煎は浅煎りに仕上げています。今回はいつもより投入量を増やし、釜から受ける直接的な熱を少し抑えながら、豆同士が持つ熱を活かすようなイメージで焙煎しました。目指したのは、ブルーベリーやチェリーのような果実感をより鮮やかに表現すること。冷めても酸だけが突出せず、このコーヒーが持つ甘さときれいな質感が残るように調整しています。
まず驚くのは、そのアロマ。袋を開けた瞬間、豆を挽いた瞬間、そのたびにEl Divisoらしい華やかな香りが空間いっぱいに広がります。焙煎所で淹れようとすると、「なんかすごくいい香りする!」と、すぐに周りのスタッフが反応します。淹れる前からちょっとワクワクさせてくれるコーヒーです。実際に飲んでみても、その印象はそのまま。レッドチェリー、ブルーベリーガム、カシス、オレンジキャンディーのようなフルーティーな味わいが、口の中にジュワッと広がります。飲み終えて、みんなで感想を話している間もずっと口の中に残る甘い香り。思わずうっとりしてしまうような、長い余韻が続きます。そして、このコーヒーの良さは派手なフレーバーだけではありません。キャンディーのようなしっかりとした甘さと、少し粘性のある口当たりが全体を支えているので、温度が下がってもバランスが崩れず、最後まで心地よく楽しめます。
一口目は、その鮮やかな果実感に。二口目は、いつまでも続く余韻の長さに。
そして飲み進めるほどに、それらを支えるしっかりとした甘さと、なめらかな質感に気づきます。飲むたびに、またひとつ好きなところが見つかる。
そんな、一口一口に心惹かれるコーヒーです。ぜひ、ゆっくりとお楽しみください。